この記事はエアコンのヒートポンプに関する理解を深めるために機械実用便覧から熱効率に関連する理論式や解説を引用しています。
熱効率と熱量について 機械実用便覧より
熱効率について
関連する用語について機械実用便覧より引用します。
熱力学の第一法則
熱エネルギーと力学的な仕事は相互に交換可能であり、変換に際して両者のエネルギーの総量は保存される。これを熱力学の第一法則と呼ぶ。
熱力学の第二法則
熱力学の第二法則の表現には二通りある。一つはクラウジウスの原理で、「低温の物体から取った熱をすべて高温の物体に移し、それ以外に何の変化も残さないことは不可能である。」
もう一つはトムソンの原理で、「ある物体より取った熱をすべて仕事に変えて、それ以外に何の変化も残さないようにすることは不可能である。」
これらの否定形で表現される二つの内容は、理論的に等価であることが証明できる。熱力学の第一法則はエネルギーの量的関係を表すが、第二法則はエネルギーの変化の向きを表す。
熱効率
熱を仕事に変換する機械を熱機関と呼び、熱機関において熱の授受に関与する気体や液体などの媒体を作動物質または作動流体という。
熱機関が連続して一定の仕事え行うためには、その系の状態が、ある値から出発して再び元にもどる過程をたどる必要がある。
この過程をサイクルとう。仕事を取り出すことを目的とするサイクルでは、高温熱源から熱Q(high)を受け取り、低温熱源に熱Q(low)を与えて、外部に W=Q(high)-Q(low)の仕事を行う。
その熱効率ηは次式によって定義される。
η = (Q high -Q low) / Q high
= W / Q high
一方、外部より仕事を導入して、低温熱源から熱 Q low を奪って高温熱源に熱Q high を与える冷凍機やヒートポンプでは、次式のような成績係数COP (coefficient of performance) という効率指標を定義する。
冷凍機の場合 COP = Q low / W
ヒートポンプの場合 COP = Q high / W
COP 成績係数 (Coefficient of Performance)
【出典元:ヒートポンプ利用の現状と今後の動向 (WWW.jstage.jst.go.jp) より引用】
COPとは、ヒートポンプの効率を表す尺度であり、COPの値が大きいほど効率が高いことを示しています。
COP= 出力熱エネルギー[Kcal] ÷ 入力電気エネルギー[Kcal]
= 空調機能力[Kcal/h] ÷ (消費電力量[kWh/h]×860[Kcal/kWh])
例)消費電力1.15[kW]で暖房能力3,000[kcal/h]を出すヒートポンプ(エアコン)の成績係数を算出すると
COP = 空調機能力[Kcal/h] ÷ (消費電力量[kWh/h]×860[Kcal/kWh])
COP = 3000÷( 1.15×860) ≒ 3.0
空調用の場合 COP成績係数 3~4で使われる事が多い
産業用の場合 成績係数 5~10になることは十分に可能(廃熱を活用すれば、熱源温度が高くなることから)
APF 通年エネルギー消費効率 (Annual Performance Factor)
2006年9月に改正されたエネルギーの使用の合理化に関する法律でCOPに代わって省エネルギーの指標の基準値と定められました。
現在エアコンではCOP表記に代わってAPF表記となっています。省エネ性能に優れたエアコンを購入する場合、APFの値が大きなのもが良いことになります。
ヒートポンプとは
【出典元:ヒートポンプ利用の現状と今後の動向 (WWW.jstage.jst.go.jp) より引用】
現在はフロンにかわりR22,R32,R410A,R134Aという冷媒が使用されていますが、ヒートポンプとはこの冷媒を回路内で圧縮、膨張を繰り返すことで熱を別のところに運ぶ熱機関といえるでしょう。
この熱機関に入力する電気エネルギーは冷媒を圧縮するためのコンプレッサーを回すために使われます。
そして、冷媒の圧縮・膨張と熱交換器の組み合わせにて熱を室内と屋外に移動させることで入力した電気エネルギーを純粋に加熱するときにと比較して数倍の熱の移動(加熱・冷却)を可能としています。
先の項のCOP=3であれば入力した電気エネルギーの3倍の熱エネルギーを移動させることができるということです。
【暖房でのヒートポンプサイクルは】
圧縮
コンプレッサーで圧縮された冷媒は高温高圧となります。(圧縮)
凝縮
室内機(熱交換器)で高温の冷媒の熱が奪われ室内の冷気があたためられる。熱を与えた冷媒は低温の液体となる(凝縮)
膨張
冷却された冷媒は膨張弁で膨張され低温低圧(-5℃~15℃)の液体になる。
低温低圧の液体となって冷媒は室外機(熱交換器)で外気(10℃)から熱を奪うことで気化する。
蒸発
室外機で温められ気化した冷媒はコンプレッサーで圧縮され高温高圧となり再び室内機へと熱を運ぶことになります。
外気温が零
下のような状態では室外機で冷媒を温めることは困難となります。そのため寒冷地ではエアコンによる暖房は苦手としていました。
しかし現在は寒冷地仕様のエアコンの販売数が伸びています。室内機は基本的には普通のエアコンと同じですが、室外機は寒冷地仕様では表面積が大きな熱交換器と強力なコンプレッサーを搭載
【冷房でのヒートポンプサイクルは】
圧縮
コンプレッサーで圧縮された冷媒は高温高圧となります。(圧縮)
凝縮
高温高圧な冷媒は室外機(熱交換器)で外気(30℃)により冷却され液化する。
膨張
液化した冷媒は膨張弁にて膨張して低温低圧の液体となります。
蒸発
室内機(熱交換器)で室内の熱を奪うとこで室内を冷やす。
熱を奪われた冷媒は再びガス状となり再びコンプレッサーにて高温高圧になります。
ヒートポンプについてさらに深堀りすると
【出典元:ヒートポンプ利用の現状と今後の動向 (WWW.jstage.jst.go.jp) より引用】
成績係数COP 蒸発温度と凝縮温度との関係
下の模写グラフから分かるように、ヒートポンプの成績係数は蒸発温度が高いほど大きくなります。また、凝縮温度が低いほど成績係数は大きくなります。
模写グラフ ヒートポンプの成績係数 電気学会雑誌より
低温側、高温側の流体温度と成績係数の関係
模写グラフ 熱源温度と成績係数 電気学会雑誌より
家庭用暖房のエネルギー利用効率 実効単価比較例
【出典元:ヒートポンプ利用の現状と今後の動向 (WWW.jstage.jst.go.jp) より引用】1983年 電気学会雑誌
家庭用暖房のエネルギー利用効率 | ||||
エネルギー源(機器) | 機器効率 (c) | 燃料(a) |
製造・輸送効率(b) |
|
電力 | ヒートポンプ | 3.00 | 原油・LNG 1.00 | 0.36 |
ヒーター | 1.00 | |||
都市ガス | FF式ストーブ | 0.95 | LNG・原油1.00 | 0.95 |
開放型ストーブ | 1.00(0.65) | |||
灯油 | FF式ストーブ | 0.95 | 原油 1.00 | 0.95 |
開放型ストーブ | 1.00(0.65) |
エネルギー源(機器) | 総合効率(d)=a×b×c | 実効単価(円/1000kcal) | 算出根拠 | |
電力 | ヒートポンプ | 1.08 | 12.4 | 1kWh=860kcal 32円/kWhより算出 |
ヒーター | 0.36 | 37.2 | 同上 | |
都市ガス | FF式ストーブ | 0.90 | 15.9 | 1㎥=9950kcal(13A) 150円/㎥より算出 |
開放型ストーブ | 0.95(0.62) | 15.1(23.2) | 同上 | |
灯油 | FF式ストーブ | 0.90 | 11.5 | 1ℓ=8220kcal 90円/ℓより算出 |
開放型ストーブ | 0.95(0.62) | 10.9(16.8) | 同上 |
算出方法の解説 | ||||
エネルギー源(機器) | 実効単価の算出【機器効率(c)を使用】 | |||
電力 | ヒートポンプ | (1000/860)×32÷3.00=12.4円 | ||
ヒーター | (1000/860)×32÷1.00=37.2円 | |||
都市ガス | FF式ストーブ | (1000/9950)×150÷0.95=15.9円 | ||
開放型ストーブ | (1000/9950)×150÷1.00=15.1円 | |||
灯油 | FF式ストーブ | (1000/8220)×90÷0.95=11.5円 | ||
開放型ストーブ | (1000/8220)×90÷1.00=10.9円 |
※筆者は実効単価の計算に機器効率(c)を使用していると思われます。
産業用のエネルギー単価比較
【出典元:ヒートポンプ利用の現状と今後の動向 (WWW.jstage.jst.go.jp) より引用】1983年 電気学会雑誌
エネルギー単価の比較 | |||
熱源(機器) | 単価(A) | 発熱量(B) | |
電力 | ヒートポンプ | 6kV(高圧甲)23円/kWh | 860kcal/kWh |
ヒーター | 6kV(高圧甲)23円/kWh | 860kcal/kWh | |
都市ガス | ボイラ | 13A 135円/㎥ | 13A 9950kcal/㎥ |
灯油 | ボイラ | 80円/ℓ | 8220kcal/ℓ |
A重油 | ボイラ | 75円/ℓ | 8770kcal/ℓ |
熱源(機器) |
1000kcalあたり単価(C=A/B×1000) | 成績係数 または効率(D) | 実効単価 | |
(円/1000kcal) | ||||
(E=C/D) | ||||
電力 | ヒートポンプ |
26.74円 | 3.0 | 8.91 |
4.0 | 6.69 | |||
6.0 | 4.46 | |||
ヒーター | 26.74円 | 1.0 | 26.74 | |
都市ガス | ボイラ | 13.57円 | 0.8 | 16.96 |
灯油 | ボイラ | 9.73円 | 0.8 | 12.16 |
A重油 | ボイラ | 8.55円 | 0.8 | 10.69 |
これらのデータより、成績係数の値を大きくするとヒートポンプの効率が良くなることが分かります。また、ヒートポンプは同じ熱量を得るために必要なコスト(実効単価)が他の暖房機器よりも低いことから、熱効率が良いと言えます。
熱量という観点で暖房について考えてみます。
平均的な6畳の部屋をあくまで簡易的なモデルとして熱量[cal]に着目します。現実には存在しませんが天井、壁、窓、床すべてが断熱されていて熱を吸収することがないことを前提とします。
まず、1㎥の空気を1℃上昇させるのに必要な熱量は何カロリー必要なのか?
放熱を無視した場合
空気1[㎥] = 1000[L] の質量は
1000[L] / 22.4[L/mol](気体の体積) × 28.966[g/mol](空気の分子量)
≒1293[g]
空気の定圧比熱は1.006[J/gK]
1㎥の空気を1℃上昇させるのに必要な熱量は
(1.006[J/gK] × 1293[g]× 1[K])/ 4.18[J/cal]
≒ 311[cal]
ちなみに1[cal] = 4.186[J]
標準大気圧のもとで1[g]の純粋な水を1℃高めるのに必要な熱量を1[cal]と定義されています。
モデルの6畳の部屋の体積を25㎥とします。室温13℃から23℃まで温度を10℃上昇させるときに必要な熱量を求めます。
6畳の部屋の空気の質量は
25000[L] / 22.4[L/mol] × 28.996[g/mol] = 32.36[Kg]
6畳の部屋の空気を10℃上昇させるのに必要なカロリーは
(1.006[J/gK] × 32360[g] × 10[K]) / 4.18[J/cal] = 77880[cal]
77880[cal] = 77.9[Kcal] となります。
電力量に換算すると
1[kWh] = 860[kcal]ですので
77.9[kcal] / 860[kcal] ≒ 0.09[kWh] となります。
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